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消せない

決して消せない、消えることのない思いはあると思います。







ある日

とある音楽制作会社から僕に連絡が入りました。


「ちょっとお願いがあるのですが…」



僕は実際にそこの社員さんと会い、話を聞きました。


そこで渡されたのが、一つのCD-Rom。


「これは??」
そう僕が尋ねると

「私の会社に送られてきたデモ音源です」
と答えた。

デモ音源とは、いわゆる自作の曲のことでアマチュアミュージシャンやデビューを夢見る人達がレーベルなどに渡す音楽のこと。

それ自体は非常によくある出来事で、特に珍しくなかった。



「聞いてみますか?」
彼は僕にそう言った。

音楽好きの僕は断る理由なんてなかった。









「いいですね、この曲」

実際に曲を聞いた僕はそう感想を述べた。

「ええ、そうなんです。私たちもとても気に入ったんです。」



「そこでお願いなんですが…」

彼は申し訳なさそうにそして僕が曲を聞いて好印象だったからか少し安心した表情を見せながら言った。

「曲としては非常に良いのですが、なんせデモなのでクオリティが悪いんです。」

つまりは、ミックス作業を僕にやってほしい。と、言うわけだ。

僕は一応レコーディングなどの知識はある。
しかし、所詮アマチュア。彼らプロには到底叶わない。
なぜ僕に頼んだのか、とても気になった。

何故?
僕は彼に聞くと、また彼は申し訳なさそうに答えた。


「実は…」


「なるほどねー。いいですよ、僕でよければ。」



話を聞いた僕はその仕事を引き受けた。



実はその会社、それはもう赤字ギリギリでいつ潰れてもおかしくないらしい。

当然、プロのアーティストをプロのエンジニアに編集してもらっては金がかかる。

そこで、素人のミュージシャンに素人のエンジニアで節約しようと言うわけだ。


「気を悪くさせてしまったらすみません。ただ、プロではない方でも確かな実力を持っている人はいると思ったんです。そこで選ばれたのがデモテープの彼とあなたなのです。」


彼はそう付け足した。

確かにデモの曲はとてもいい曲だ。
それに、僕も編集には自信がある。その辺の素人には負けないプロに近い仕事をすることだってできる。



「ラッキーだよ」

「え?なんと?」

「オレを見つけられて。いいもの仕上げて見せましょう。」

「あ、ありがとうございます!!」








早速僕は仕事に取りかかった。


この曲、聞けば聞くほどいい曲だ。
明るい前向きな曲で、生きる元気がわいてくる。

今まで生きてきたこと、そして身の回りの出来事に感謝している。そんな印象の曲だった。



普通、曲をレコーディングするときはボーカルやギター、ドラムなど楽器によって様々な機材を使って録音される。
しかし、この曲は演奏とボーカルも同じもので録音されたのであろう。ボーカルが楽器の音に埋もれてしまっている。

そう言った場合には、まず演奏と歌声を分けてバランスをとる必要がある。

つまり簡単に言うと、歌声だけの音源と演奏だけの音源を作る必要がある。

当然、プロがプロの機材で録音したのであれば、それぞれの音源があるはずだがこれにはもちろんない。
なので、もともとある一つの音源からコンピューターを使って歌声だけ、演奏だけを吸い出すのだ。


これ自体はそこまで難しいものではない。
コンピューターのソフトを使えば完璧ではないにしろ簡単にできる。

早速僕は作業に入った。


「んー、少し残っちゃうかー…」


一応は出来たもののやはりどうしても演奏の方に人の声が残ってしまう。


この曲はおそらく自分の部屋かなにかでレコーディングされていて、演奏や楽器の音に「反響」がほぼない。
カラオケでもあるようにエコーのようなものが欲しいと考えていた僕は演奏だけをどうしても取り出したかった。



仕方ない、演奏が少し消えてしまっても良いから声を完璧に消してしまおう。

そう思った僕は、すこし数値を強めに設定しさらに編集した。





これで消えただろう。



波形、というものをご存知だろうか。
音声ファイルを波の様なギザギザした図であらわしたものだ。

その波形で出来上がった音声を見ていた。


すると僕は気付いた。


楽器ではないものが残っている。

そう、まだ消えていなかった。






僕はその問題の個所を聴いた。




なんだ?

なにか小さく音が鳴っている。

まあ、何も不思議なことはない。少し残ってしまうのは当然か。
それにこれだけ小さい音ならば、歌声を上から合成した時に聞こえなくなってしまうだろう。
そう思っていた。

それから次に僕は歌声の方の編集に入った。
今度は逆に楽器の音を消して歌声だけを取り出す。簡単な事だ。

そしてまた、もともとの音源をソフトを使い波形で見た時に気付いた。



-例の音が小さくなっていない-


ソフトで編集したその問題の音は、消えるどころか小さくなってもいない。


コンピューターのソフトで編集したその音源は、歌声はもちろん楽器の音でさえ影響を受け少なくとも小さくなってしまっている。それが普通なのだ。

しかし、問題の個所は小さくもなっていない。
編集する前と全く変わらない音量なのだ。


おかしい。



僕は再びその問題の個所を聴いた。



何だ?

何かとても小さくだが確かに何かが聞こえる。



何度か聴いてみたものの、小さすぎて聞こえない。
なんと言ってるかは分からなかった。



「そうだ、数値をものすごくあげて全ての音を消したらどうなるんだろう。」

もしかしたら僕のコンピューターの不具合でノイズが走っているのかもしれない。
音が小さくならないのであればそれが原因も考えられる。

僕は設定画面で、全ての音を消すように設定した。
これで音源に問題ないことが分かる。



分かるはず・・・・だった。


波形は音が鳴っていない所は直線で表わされるのだが
一ヶ所だけ、ギザギザが残っていた。

例のところだ。


さらに、僕は気付いた。
それは機械的なものではない、と。

楽器の音や機械の不具合におけるノイズだと、波形はある程度の規則性がある物になる。
音は空気の振動で出来ている。つまり、何かが空気を震わせて音は発生する。

永続的になる物や音が長く続くもの、つまり楽器などはある程度規則性のある波形になる。

しかし、その問題の音は楽器や機械のノイズではない。










人の声だ








時間で言うと1秒程度、要は「ひとこと」で音の高さに変化がない。

何かをつぶやいている。

僕はもう一度再生ボタンを押した。




















「いやー、本当にありがとうございました!」

僕が完成した音声ファイルの入ったCD-ROM渡すと音楽会社の担当の方はお礼の言葉を述べた。

「で・・申し上げにくいんですが・・・・」
彼は急に深刻な顔になって僕に言った。


「報酬、つまりお金はあの・・・・」
「分かってますよ。いりません。ただしソレが莫大なヒットを飾ったら少しは分けて下さいよ。」
「そうですか・・本当にありがとうございます!!」
「いえいえ。」
「では・・・」
「え?聞かないんですか?」
「え?ああ!そ、そうですよね!聴かせて頂きます!」



そういうと彼はオーディオプレーヤーで再生して聴きだした。

一通り聴いて見た彼は
「いや・・素晴らしいです。本当にお金を払えないのが申し訳ない。」
と答えた。

「いやいや、それは本当に気にしないでください。では・・」
僕が帰ろうと会社の事務所を出ようとするともう一度奥の部屋からあの曲が聞こえた。

気に入ってくれたようで良かった。そう僕が思っているとすぐに曲は止まった。
それが2度3度と続いて僕は気付いた。



「あの問題の個所・・だ。」



そう、問題の個所を何度も確認するように聴いていた。
僕は急いで彼のもとに戻り、言った。


「知ってたんですか?」
僕が言うと彼は驚いた表情と同時に少し嫌な表情をした。

「すいません。」
と彼はつぶやいた。





例の問題を知っている人が集まりだし、僕は真実を知った。
ココは音楽制作会社。レコーディングやミックスの知識がある人なんていくらでもいる。
しかし、わざわざ外部の人間の僕に頼んだのは皆が気味悪がったからだ、ということ。

皆、消えることのないその音声に気付いていたんだ。



曲の終盤に消えそうなほど小さな声で














ありがとう

























「でもね、宅録(自宅でレコーディングすること)だと生活音が混ざることも良くあるし、レンタルスタジオでも通路の会話が入っちゃうって事だって良くあるからね。なんとも言えないよ。」
僕はそう言った。

「それに、これだけ明るい、前向きな歌だ。そんなに気持ち悪がる事もないんじゃない?これが失恋の歌だったら怖ぇけどな。」
また事情を知るスタッフもそう言った。

僕の専門的な意見、そしてそのスタッフの人の客観的な意見もあり、「気にしない」という結論でまとまった。




「でもさ、本当に前向きな曲だよな。家族や友人、自分の身の回り全てに感謝している事がひしひし伝わってきてさ。」
「な。この人は本当に感謝してるんだな。」

僕は皆と一緒に完成した曲を聴きつつ談笑していた。

「おい、早く連絡取れよ。」
年上であろう社員の人がいつもの彼にそう言うと、彼は
「いやー、電話がまだ通じてないんですよ。」と答えた。
「そりゃそうだろうよ。確か地方の子だろ?知らない東京の番号じゃ出ないだろ。」
「あ、確かに。」
「Twitterとかブログ探してみたら?音楽やってるならなんかしらあるんじゃないですか?」
「それだ!よーし・・。」


「音源送っといて電話でないってあるんですか?」
僕はそう聞いてみた。
「音源貰って時間経っちゃってるしねー。」
「そっかー。いつ来たんです?」
「○年の12月。」
「半年経ってるじゃないですかwww」
「だよねーww」

僕は社員の人と話していると
「あ、Twitter見つけました!でもダメだ!最終の更新が半年前だ!」
と例の彼が言った。
「じゃ、見てねーなwwどうにかしろよww」
「は、はい!」









僕は家に帰っていつものようにTwitterを見ているとふと気になってあの音源の人のアカウント名で検索してみた。
インターネットってすごいね。すぐに見つかった。


その瞬間、僕の体に一気に鳥肌が立った。

確かに最終更新は半年前だ。

しかし、それ以前は一日に数十の投稿をしている。



そんなにパッタリ急に止めるだろうか・・・?



「やっぱり・・か。」



僕は電話を取り、音楽制作会社の人に連絡した。



「もしもし?あの実は・・・・」






























数日前。
まだ音源を会社に出す前の話だ。

例の「ありがとう」の件は上でも書いたように「なにかの生活音が混ざっただけ」と"思っていた"。
気にせず作業を進め、今度は演奏を消して歌声だけを抽出しようとしていると、同じ様なノイズを歌詞と歌詞の間、つまり声のない部分に見つけた。

僕はなんの気なしに確認のために再生してみた。
するとそこには人の声で






















さようなら






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あの声じゃなかったのか。チェッ。

届いたのも更新が停止したのも半年前か。
歌詞からして、彼は最初から命を断つつもりだったのかもしれないね。
その曲がどういう評価を受けたとしても。

CDに刻まれた消せないメッセージは、最後に曲を聴き、認めてくれたみんなに対する感謝と惜別の念か。
何にせよ残念な話だ。

そこに至る理由も色々あったんだろうが…
生きてなきゃ、何にもなりゃあしないじゃないか。





俺はてっきりAEGIでも聞こえたのかと思ってたぜw

ま、元気に生きてイキたいよな!v
ジュンちゃん第二子まーだー?w

おおふ…

電波障害でコメ消えて書き直したが、抜けてる部分があったべ、

光GENJIのある曲の冒頭のアレって有名らしいねw

え!?
最後ちょっと鳥肌立ちました…。

そこまで強く残せる思いがあったのに亡くなるとは事故か自殺か分からないけど残念な話だね。
そういや昔B'zのアルバムで再生する度に音が変わってくるっ言う曰く付きのアルバムを思い出した…

なんか…本当にそんな話ってあるんですね(-ω-)
何があったんですかね?(><)
ありがとう。や、さようなら。って、歌ってる彼と同じ声なんですか?(´Д`)
そんなに良い曲なら世間に出して欲しいですね!!(´∀`)是非聞いてみたいです♪

心残りとか未練とか無かったら良いんですけどね(;>_<;)

No title

古くは岩崎宏美のレコード(古っ)にもよく似た話がありましたね・・・
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